■4つの網領
開校直前の大正6年1月、教育雑誌等を通じて発表された『私立成城小学校創設趣意』には、以下のような4つの「希望理想」が掲げられている。
一.個性尊重の教育、附・能率の高い教育
二.自然と親しむ教育、附・剛健不撓の意志の教育
三.心情の教育、附・鑑賞の教育
四.科学的研究を基とする教育
澤柳が私立学校設立の必要条件の一つとした「教育上の理想」を、あえて「希望理想」と表現したのには、つぎのような意味が込められている。
すなわち、上記「創設趣意」の中で、「本校は今、将に生れんとするもの故、其の特色の如何は他日を待たねば明言できません。又一定の主義の如きも未だ標榜すべき時ではありません。本校は内外各種の学校の長所を見逃さず採用すると同時に、校長主事訓導の創意工夫を加え、且、常に顧問其の他の意見を聞き、飽くまで研究しつつ改善して行く内に自然に或種の特色が現われようと思います」と述べられているように、「本当の教育」を目指しての実験研究を科学的に高めていくことをめざした澤柳の決意の表れと言っても過言ではない。
また、澤柳は、個性尊重の教育にとって不可欠とされる「自由」について、つぎのように述べている。「児童の自由を十分に尊重し、其の自然の発育を助けたいと思っている。児童の行動の如きもあまりに之を拘束せずに自由に活動せしめるのがよいと思っている。それ故に法令よらない所がある。然し、これは自由教育主義より生れ出たことではなく、研究の為しているのである。」(『教育問題 研究』第10号 1920年)つまり、澤柳は、当時流行していた自由教育主義からではなく、どこまでも、本当の教育をめざして、研究のため、方法として「自由」を採用しているということを強調した。
この4つの「希望理想」=建学の精神が、創立以来80有余年を経た今日に至るまで、我が国の教育界で常に燦然と光を放っている所以は、上記のような創立者・澤柳政太郎の考えを背景に持つからである。
■教育理念
創立以来一貫して、"子どもを中心に考えた学校づくり"を目指してきた。今日、自由な学習環境の中で、自然や社会についての科学的認識を高め、知的技術面の発達を育成するとともに、情操的創造表現の教育面にも力を注いでいる。
また、一人一人の子どもの幸せのために、教師と保護者がお互い協力しあいながら、子どもたちのもって生まれたすばらしい個性を最大限に活かすべく、なお一層の努力をしている。
本校では現在、6つの領域でもってカリキュラムを編成し、これを実践している。
A:自然と社会の教育
自然及び社会についての科学的な認識を高める側面の領域
(1.社会科 2.理科 3.数学科)
B:技術技能の教育
知的技術的な側面の発達をはぐくむ領域
(4.国語科 5.英語科)
C:情操の教育
情操的創造表現面の発達をはぐくむ領域
(6.文学科 7.劇科 8.映像科 9.舞踊科 10.美術科 11.音楽科)
D:健康の教育
身体的・運動的な側面の発達を助成する領域
(12.保健体育科)
E:綜合教育
諸経験をより豊富にする領域
(13.遊び科 14.散歩科 15読書科)
F:学校生活の教育(教科外の教育)
各クラス独自の活動、ノングレードの場を有効に生かす活動、子ども一人一人の特性の伸展をはかる活動、各種行事、校外教育等
(クラスデー、特別研究、児童委員会活動、劇の会、観劇会、音楽の会、音楽鑑賞会、運動会、映画鑑賞会、遠足、施設見学、グループハイキング、夏の学校、秋の学校、スキー学校など)
■個性尊重の教育
本校が創立以来標榜している「個性尊重の教育」は、現在のカリキュラム上に、以下のように位置づけられている。
A.富士山登山型
頂上に達するという最終目標は共通だが、どのコースを通って登るかとか何時間かけて登るかなどは個人差に応じた方法を選択する。すなわち、一つの目標に向かって様々なルートで挑む。方法の自由、進度差を認める。
※主として、国語・数学・社会・理科などの基礎教科に適用。
B.八ヶ岳登山型
どの程度の高さの山に登るかという最終目標は個人差に応じて選べるが、ある程度共通の時間で歩いて登るという方法は同じである。すなわち、目標は個々異なるが、登るという行動そのものは共通して、登るプロセスこそが大切という考えである。つまり、登るという行為は共通だが、個々に応じた到達点の違いを認める。
※主として、美術・音楽・映像などの芸術教科に適用。
C.ピクニック型(野外遠足型)
ピクニックに行くという行為は共通だが、どこに行くか(目標)とか、どうやって行くか・誰と一緒に行くか(方法)、現地でどうやって楽しむか(内容)などは個人の自由とする。すなわち、山でも川でも谷でもよいが、「楽しむ」という行動は共通で、一定の時間のみを限定し、場所・方法、内容の自由を認める。
※特別研究・クラスデーまた、合唱部、ブラスバンド部・「オーストラリアホームステイの旅」等といった希望参加型の活動・行事に適用。
■教科の取り組み
○国語
国語科では、文学科を特設することにより、ことばの技術技能の領域として、表記や語彙・文法と説明的文章を中心とした読解を扱っています。多くの文章・ことばに触れることで語学能力を高める多読と、個々人がそれぞれに学習材に取り組む自学学習法を重視しています。そのため、低学年では20冊ほどの教科書で読み書きに慣れ、中高学年では課題を絞った自主教材により学習者も学習内容や達成感がつかみやすい学習をすすめています。
○数学
数学的な考え方を重視し「算数」ではなく「数学」と呼んでいます。2年生を学習の始期とし、独自の教材「児童数学」を使って関連領域をまとめたり指導重点化を図ったりして効率的な学習をめざしています。3年生はクラスの半数で授業を行い、4年生以降では「チェックポイントテスト」を活用し、個々の学習状況に応じた指導を徹底しています。
○社会
発達段階に応じ、さまざまな社会の「なぜ」を発見し、意欲的に追及する力を無理なく育てています。実体験を通して学ぶ低学年の学習からはじまり、しだいに社会的見方・考え方の視点を培うと共に、「つかみ」「調べ」「まとめる」といった問題追求のために観察力・分析力・批判力・資料活用力などを高めています。また、環境や国際理解、福祉や情報の分野にも積極的に取り組んでいます。
○理科
日常生活との関わりを考えながら直接、体験を重視した学習を実践しています。そのために、「成功の喜びを味わえる」「驚きを得られる」「自然科学に関する基礎的な知識を習得できる」自主教材を開発し、歓迎される・楽しい授業を展開し、「基礎的な知識」と「できる・考えられる自信」を培い、確かな学力と自然を愛する心情を育てています。
○英語
4年生から、クラスの半数ずつで実施しています。英語を聞いて理解し、使ってみる体験を大切にしながら、「英語を英語のまま理解しようとする態度」を育てています。また、英語の学習を通じて、異文化に対応する力や国際的視野を育てています。授業以外でも英語を体験する場として、イベント「英語で遊ぼう」の開催や、外国人講師の導入にも努めています。
○文学
文学をことばの芸術としてとらえ、音楽や美術などと同様に、情操教育として特設されています。独自のテキスト『文学』や『作文〜指導実践事例集〜』を使いながら、文学作品の「鑑賞」と文章による「表現」の学習活動を通じて、感動や感動の深化を体験し、自然や社会・人間を見つめる豊かな感性を育て、また、ものの見方や考え方を深めさせています。
○劇
劇の時間は、3年生より始まります。様々な「劇活動」を通して、子どもたちが自らの人間関係を創り、創造力を豊かにし、鑑賞力を高めます。テキスト「げきのほん」には「グループづくりゲーム」「コミュニケーションゲーム」「表現ゲーム」「げきをつくろう」の素材がたくさん紹介されています。この時間では、様々なコミュニケーションを通じて、より深い人間関係を創ることができるのです。劇の時間の発展として、講堂で全校児童の前で発表する「劇の会」も年3回行われています。
○映像
映像の重要性は増すばかりですが、早くから映像の特性・有効性に着目し、時間を特設してきました。現在では、4年生以上で映像リテラシーを扱っています。スチルカメラ(フィルム・デジタル)やデジタルビデオカメラを利用しての表現活動により情操を陶冶し創造力を養い、また、映像作品の鑑賞により映像の読み取り能力や映像に対する批判力を育てています。これらの力は高学年時の校内放送の制作でも発揮されています。
○舞踊
4年生までの各学年で行われています。舞踊室で心を解放させ、動くことの楽しさを味わいながら、作品を創作したり、他の作品を鑑賞したり、互いの作品を批評し合ったりします。この身体による表現活動により、表現する豊かな心や、表現能力に応じた健康な身体をつくり、心と体の調和をはかっています。
○美術
本校では美術を絵画・彫塑・工芸の3分野に分け、それぞれ独立して授業を行っています。子ども一人ひとりの様々な可能性に応じ、より多様な、そしてより内容の濃い体験ができるようにしています。3人の教師がそれぞれの分野を担当し、3人の眼で子どもの能力を認め、育む機会を増やすようにしています。
○音楽
専科の教員を配し、質の高い指導を行っています。「歌は音楽の礎であり、母胎であり、本質である。」と活動の大半は歌唱中心に行い、成長段階に応じて合唱や合奏を楽しみます。教材は、流行や時代性、子どもたちの好みも加味し、幅広いジャンルの中から質の高い音楽を選曲しています。また、年2回の発表の場「音楽の会」を通じて、音楽活動へのさらなる意欲を相乗的に高めています。
○体育
低学年では「はんとう棒」ではなく「立ち木」を使うなど、自然物利用の運動を多用し、まだ充分に発育していない中学年では極度に持久力や力を必要とするものを避け、高学年ではスポーツへの興味の高まりと心身の発達に合わせた運動量を増やし、野性味を備えた強健な身体づくりを目指しています。6年生では男女別に授業を行い、保健への理解や態度、運動を通じての社会性や協調性を養う指導にも力を入れています。
○遊び
教えるのでなく自らが主体的に学ぶ場として、1年生から3年生の綜合教育の一つとして特設されています。未分化なままの子どもたちを在りのままに認め、さまざまな遊びを通じて経験を豊かにすることを目標とし、多面的な発達を期待しています。特に、積極的に物事や友達との関わりに取り組む意欲や、感性・創造性・創意工夫の姿勢・思いやり・社会性・運動能力の伸長・知的要求の充足・精神的安定感などが期待されます。
○散歩
低学年で特設しています。散歩を通じて経験を豊かにすることを目標とし、多面的な発達を期待しています。特に、自然や社会の事物・現象に気づき、感動したり、興味を持ったりすることや、子ども自身の精神的なくつろぎ・一緒に歩く友達とのさまざまな関わりが期待されます。基本的には「何をしにいく」という目的意識を持たない「ぶらぶら散歩」が中心でありその中で一人一人のさまざまな興味や発見を大切にしています。
○読書
国語の延長としてではなく、場所(図書室)と時間(「読書」の時間)と本とを保障するすることによって、自主的主体的に学ぶ綜合教育の場として特設しています。指導上、多くの、多種多様な本に触れさせることを考えていますが、あくまでも、本人の興味関心や能力による選択を尊重した「自由読書」を原則としています。図書室には、2万冊以上の蔵書があり、また、インターネットに接続されているコンピュータもあります。
○特別研究
高学年で最も人気のある時間です。好きなことに精一杯取り組め、達成感や自信を持つことができるからです。個性の伸長や、創造性や自主性・協調性の育成もねらいとしています。各教員が得意とする部を開設し、指導には卒業生・大学生・保護者の方などの協力も得ています。現在、文化・運動両部門で、10数部が活動しており、文化祭などの発表の場や対外試合もあり、また学園の伊勢原総合グランド等を利用しての合宿等も行っています
○コアラタイム
国際理解教育の一環として、夏には高学年希望児童によるオーストラリアホームステイが実施されます。この異文化体験をより豊かで実り多いものとするための事前事後学習の時間がコアラタイムです。日常英会話の練習やオーストラリアの自然や文化についての調べ学習、自分や自国の紹介のための学習、帰国後の報告会へ向けてのまとめ、次年度参加者へ体験談を話す等、幅広い活動を展開しています。
|