第4回
これまで、小学校入試における数の問題はどの領域よりも多く出題されていましたが、最近ちょっとした変化が見られます。それは、全体として「数領域」の問題が減少しているという点です。これまで、数・図形・言語の3つの領域が入試問題の大半を占め、その中でもとくに多かったのが「数領域」の問題でしたが、その傾向に変化が見られるということです。逆に図形領域や、言語の領域の問題が増えています。これはどうしたことでしょうか。そのひとつの理由に、数の問題は、将来の四則演算とつながっている関係で、問題がパターン化しやすいということが挙げられます。各学校の入試問題を作る先生方は「独創的な問題を作りたい」と考えているはずです。その場合、数の問題よりも「図形」の問題の方が、独自色を出しやすいのかもしれません。本当に「考える力」が身についているかどうかを調べるためには、数の問題より、図形の問題のほうが作り易いのでしょう。しかし、だからと言って、数の問題が全く出題されなくなったわけではありません。新傾向の難しい問題もあります。そこで、今回は、最近よく出題される数の問題を取り上げ、学習ポイントをお伝えいたします。
ところで、数における最近の傾向は、次のようにまとめることができます。
1.一場面の絵を使って、様々な問題を出題していく「数の総合問題」が多い
2.一度答えを出し、その答えに基づいて別な数の操作をする「数の複合問題」が増えている。その際、「数の増減」「一対多対応」が問題に絡むことが多い
3.話の内容理解の中に、数の変化に関する叙述が増え、それに基づいて質問されるケースが多い
4.かけ算の基礎である「一対多対応」に関する応用問題が多い。その中でも、とくに「交換」に関する問題が増えている
5.「数のやりとり」に関する問題がいろいろ工夫されて出題されている
では、具体的な問題を見てみましょう。
1.数の総合問題
● 数の総合問題(立教女学院小学校)左の絵を見て次の問題に答えてください。
・カニは全部で何匹いますか。その数だけ☆1つのお部屋に○をかいてください。
・タコ壺にはタコが2匹ずつ入っています。タコは全部で何匹いますか。その数だけ☆2つのお部屋に○をかいてください。
・白い魚と縞模様の魚は、どちらが多いですか。☆3つのお部屋から選んで、多いほうの魚に○をつけ、多い数だけ○をかいてください。
・カメがこのあと5匹来ました。何匹になりましたか。その数だけ△1つのお部屋に○をかいてください。・カモメが3羽飛んで行って、その後6羽来ました。何羽になりましたか。その数だけ△2つのお部屋に○をかいてください。 |
海の絵を使って、数に関する様々な質問をしています。質問の内容を見ると、分類計数・一対多対応・数の比較・数の増減など様々です。それぞれの質問に答えるために、絵のどこをよく観察したらよいのかを瞬時に判断しなければなりません。このタイプの問題が最近とくに増えています。
2.数の複合問題
● 数の複合問題(雙葉小学校)3つのベンチに男の子と女の子が何人か座っています。2つのベンチには3人ずつ、1つのベンチには1人が座っています。問1.
下のカゴのミカンを、1人に2個ずつあげると、ミカンはいくつあまりますか。その数だけ下の星のお部屋に○をかいてください。
問2.
新しく女の子がもう1人やってきて座りました。カゴのミカンを女の子全員に3個ずつ配るには、ミカンはいくつ足りませんか。その数だけ月のお部屋に○をかいてください。
問3.
最初にベンチに座っていた人の数で考えてください。男の子にも女の子にもミカンを3個ずつあげるとき、男の子と女の子のミカンの数はいくつ違いますか。その数だけ雲のお部屋に○をかいてください。 |
「一対多対応」と「数の多少」・「数の増減」と「一対多対応」・また「一対多対応」と「数の多少」というように、答えを導き出すために、最初の操作で答えを出し、その出た答えに基づいて別の数の操作をするというタイプの問題です。例えば、問2の場合、まず女の子が一人増えたので6人になり、その6人に3個ずつ配るには何個足りないかと聞いていますので、「数の増加」「一対三対応」と「数の多少」が絡んできます。このように、求められる答えを導き出すためには、違った数の操作をしなければなりません。こうした「複合問題」が最近増えているのです。この場合のポイントは、最初の数の操作を暗算で出せるかどうかです。とくに10以内の数の暗算は、徹底する必要があります。
3.話の内容理解の中での数の問いかけ
● 話の内容理解(雙葉小学校)
・次のお話を聞いて後の問題に答えてください。キツネのコンタ君は、冬が近くなったので、お母さんと一緒にマフラーと帽子を買いに行きました。お母さんはポケットに木の実を9個入れて持って行きました。キツネの親子は、ヒツジの毛糸屋さんに行きました。お店の外で、ヒツジのおばあさんが編み物をしていたので、コンタ君は「何してるの?」とたずねました。ヒツジのおばあさんは「ウシさんに肩掛けを編んであげているのよ。ウシさんは寒い冬でもたくさんのミルクを作ってくれるからね」と言いました。コンタ君は、帽子とマフラーを買いました。帽子の色は赤にしました。マフラーには、お日様の模様がついていて、帽子には月の模様がついていました。帽子の上にはボンボンがついていました。コンタ君はそれを見て「きれいだね」と言うと、ヒツジのおばあさんが「それはウサギさんの尻尾の毛を分けてもらって作ったのよ」と教えてくれました。お母さんは、ヒツジのおばあさんに木の実を2個渡しました。すると、ヒツジのおばあさんがコンタ君に、おばあさんが編んだ星の模様の手袋をくれました。そして「これはお返しよ。いっぱい雪で遊んでね」と言いました。次にコンタ君とお母さんは、何でも売っているクマのお菓子屋さんに行きました。窓には特売日という字と、その下には「お菓子をいくつ買っても、お店では木の実2個だけもらいます」とかいてありました。お店の中に入ると、クマさんはいなくてネコさんがいました。「どうしてクマさんはいないの?」と聞くと「クマさんは冬の準備で忙しいから、私がお手伝いをしているのよ」とネコさんが言いました。コンタ君は、クッキーと蜂蜜パイを買いました。お母さんは、また木の実を2個ずつ渡しました。でもネコさんは、2個でいいんですよと、2個返してくれました。木枯らしが吹くと、もう冬ですね。
・お母さんが持っていた木の実はいくつ残りましたか。その数だけ木の実のお部屋に○をかいてください。 |
キツネのコンタ君がお母さんと買い物に出かけ、お金の代わりに使った木の実の数の変化をしっかり捉えられているかどうかを聞いています。9個持っていった木の実が、買い物をしていく度に減っていき、最後にいくつ残ったか答える問題です。その際、クマのお菓子屋さんでの最後の部分「お母さんは、また木の実を2個ずつ渡しました。でもネコさんは2個で良いんですよ と2個返してくれました。」という部分が聞けているかどうかが問題です。そのあたりのちょっとした表現をしっかり受け止められるかどうかがポイントです
4.交換に関する課題
● 交換(雙葉小学校)
上のお部屋を見てください。メロンパン1個は、ドーナツ2個と換えてもらえます。食パン1斤は、メロンパン2個と換えてもらえます。ハンバーガー1個は、メロンパン1個とドーナツ1個と換えてもらえます。
・メロンパン4個は、食パンいくつと換えてもらえますか。その数だけリンゴのお部屋に○をかいてください。
・食パン2斤は、ドーナツいくつと換えてもらえますか。その数だけブドウのお部屋に○をかいてください。
・ハンバーガー4個は、食パンいくつと換えてもらえますか。その数だけバナナのお部屋に○をかいてください。
● 一対多対応の応用(交換・置き換え)(聖心女子学院初等科)左側の絵を見てください。絵本1冊と、鉛筆2本、消しゴム4個は、同じ値段です。花子さんは絵本を2冊買いました。
・絵本2冊と同じ値段で買えるものが入っているカバン を下から探して青い○をつけてください。
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交換で求められている考え方は、シーソーのつりあいの考え方と同じです。「A=2B、B=3C」の関係を踏まえ、A=□C、12C=□A 等を求める課題です。つまり、AとCの関係をBを仲立ちとして考える問題です。この交換に関する問題は、これまでも紹介した雙葉のハンバーガーの問題と、聖心の絵本と同じ値段を探す問題です。この2つが理解できていれば、他の問題はほぼ解けるようになっているはずですので、この2つの問題を徹底して練習してください。ただし、考え方が自分で説明できるようにするために、教え込みの指導ではいけません。
5.数のやりとり
● 数のやりとり(白百合学園小学校)
・オセロは、片面が白、もう片面が黒になっています。それぞれのお部屋のようにオセロが並んだとき、白と黒のどちらを何個裏返しすれば、白と黒は同じ数になりますか。裏返しするほうのお部屋にその数だけ○をかいてください。
● 数のやりとり(暁星小学校)
男の子と女の子が5個ずつアメを持っています。
・男の子が女の子に1個あげて、女の子が男の子に3個あげたら、2人の持っているアメはいくつになりますか。その数だけそれぞれのお部屋に○をかいてください。
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「数のやりとり」として、分析している問題のタイプは2つあります。その一つは、それぞれが持っているものの数が違う場合、同数にするにはどうしたらよいか という問題です。また、もう一つのタイプは、同じ数だけ持っていて、やりとりした結果、それぞれが持っている数の違いはいくつかを問う問題です。とくに後者の方が難しく、1個あげたら、違いは1個と答えてしまうケースが多く見られます。片方は1個増え、もう片方は1個減るため、1個あげるだけで違いは2個になるということがどのように理解できるかどうかがポイントです。ここに数のやりとりの難しさがあります。実際に経験することを通して理解させてください。
以上5つを取り上げ紹介しましたが、これ以外にもいろいろ工夫された問題が出題されています。その中でも、「魔法の箱」における数の変化も最近よく出題されていますので注意が必要です。そして全体として言えることは、さまざまな方法で暗算能力を求めているということです。
数の問題になると、まだまだ指を使う子が多く見られますが、指を使った方法では限界があり入試は突破できません。とくに「話の内容理解」の中で、数に関する問題が多く取り上げられていますので、10以内の数の変化については、頭の中でイメージできるように繰り返し練習してください。そのためには、おはじき等、実物を使った数の操作を繰り返すことです。そうした繰り返しの中で、数の操作が内面化され、それが暗算能力を高めることに繋がっていくのです。小学校入学後のことも考えると、暗算能力を高める「数の内面化」をこの夏休みの大きな課題にしてください。
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