第1回
2007年度あたりから始まった私立小学校の受験者減少傾向も、少し落ち着きを見せ始めたように思います。リーマンショック後の経済状況や、東日本大震災後の入試に対する考え方の変化、また公立校の努力等で私立小学校への受験者が減少してきました。一方で入学辞退者の増加で定員割れを起こして4月の新学期を迎えざるを得ない小学校も出てきています。
こうした状況の中で、子どもたちを受け入れる小学校側も、いろいろな対策を講じはじめ、受験者にとって魅力的な学校作りに力を入れるようになってきました。働く母親を支援するためにアフタースクールを実施する学校も増えました。また、私の一番の願いであった「入試情報の公開」も少しずつではありますが、実施されるようになってきました。
学校の日常を見てもらうための公開授業も増えてきました。そうした中で、入学後の子どもたちの様子をふまえながら、行き過ぎた受験産業の「型」を教え込む教育を批判するメッセージも学校側から発信され始めています。
入試内容そのものも大きな変化が見られるようになってきました。
少ない枚数のペーパー問題で子どもの「考える力」を見ようと小学校側も入試問題作りを工夫しはじめ、その結果、洗練された問題が増えてきました。また、集団での指示行動を重視したり、行動観察を通して人との関わりや、ものごとに取り組む意欲・自己表現力等を重視する学校が増えてきました。
こうした入試問題の変化は、大学入試までを含めた、日本の入試の在り方に対する反省がその背景にあります。1点でも多く得点する者から合格させていく従来の入試に対する反省が、センター試験の改革や、東大・京大におけるAO入試の実施につながっているのです。つまり、知識や技能を客観的に判断するだけでなく、思考力・判断力・表現力を見ようとする試験に変えていかないと、これからの時代を背負う人材の育成ができないと教育界が考え始めているのでしょう。とくに、何かを成し遂げようとする意欲をどう評価するかが最大の課題のようです。小学校入試における「行動観察の重視」はそうした背景の中で出てきた方針だと思います。
ペーパー問題の試験の内容も大きく変わりつつあります。30年ほど前の、知能検査の問題、それに続く大量にペーパー問題を課していた時代と変わって、少ない枚数で、子どもの「考える力」を見るために、学校側は入試問題の研究に力をいれています。その結果、小学校高学年で学ぶ文章題の特殊算を幼児向けに変えて出題する学校も増えてきました。
私が見る限り、消去算・旅人算・植木算につながる考え方を問う問題はすでに出始めています。こうした動きは、世の中全体の入試改革の流れの中で見て行くと非常によく理解できます。受験産業(幼児教室)に対する学校側の批判も、こうした流れの中で出てきているのでしょうか。これまで特別視されてきた「お受験」の対策を、まともな幼児教育に変換させていかないといけない時代になってきたのです。
ところで、ペーパー問題の試験に関する最近の傾向は、次のようにまとめることができます。
@ 出題内容は、数・図形・言語が中心であることには変わりないが、その中でも、数の問題が減少し、図形の問題が増えている
A 図形の問題は、図形構成−図形分割が中心ではあるが、対称図形・重ね図形・回転図形のような難しい問題の出題が増えている
B 言語の問題は、「話の内容理解」が中心ではあるが、「ことばの理解」に関する問題、とくに日本語の基礎である「一音一文字」の考え方を応用する問題が増えている
C 未測量や位置表象の問題は、全体としては多くないが、以前よりはよく出題されている。とくに四方からの観察や位置移動に関する問題を通して、空間認識を問う問題が増えている
D どんな領域の問題も、条件反射的に答えを問うのではなく、指示を聞き、約束に基づいて作業し、答えを導き出す問題が増えている。とくに飛び石移動・回転図形・図形分割・法則性の理解などでは、そうした作業能力が求められている
E 誰もが得点できそうな常識問題も工夫され、自分自身が経験して身に付けた知識を求める傾向にある。図鑑的な知識だけでは対応しきれない問題が増えたということである
これから入試までの残り約5ヶ月足らずの期間に何をどう学習したらよいのか。基礎学力を点検しながら、難しい過去問に取り組んでいかなければならないこれからの学習法を、実際の問題に即してお伝えしていきます。ぜひご期待ください。
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