第11回
今年秋の受験まで、残すところ半年余りとなりました。4月からは、それぞれの園で年長クラスに進級し、子どもたちの意識も変化し、学習意欲の高まりも見られるはずです。秋の受験に向け、すでに過去問に取り組んでいる方も多いかと思いますが、現段階で、すべての過去問が解決可能であるはずはなく、まだまだ基礎を固めないといけない時期です。長年の指導経験から、過去問に取り組む時期は5月連休明けぐらいからが最適だと考えています。しかし、一口に「過去問」と言っても、易しいものから難しいものまで、難易度には大きな開きがあるため、基本的な問題については、そろそろ取り組みも可能でしょう。ただし、実際の入試問題は、普段の基礎学習と違って入試独特の出題方法がありますので、同じ学習単元ならば、基礎学習が終わればすぐにできるというほど単純ではありません。例えば「一対多対応」の学習が終わったからと言って、それに関係するすべての過去問が解決可能かというと、そんなに単純ではありません。なぜなら、入試問題が難しくなっていく背景には、次のような理由があるからです。
@ 1回の指示をしっかり理解して取り組まければならないが、その指示の表現の仕方が、子どもに理解しにくい言い回しになっている場合が多い
A 数の複合問題に象徴されるように、求められている答えを導き出すために、一度ある答えを出して、その出した答えに基づいて、また別な数の操作をしなければいけない問題が多い
B 同じ単元の複合問題だけでなく、違った領域の理解が、一つの問題を解くのに必要な場合が多い(たとえば図形分割の考え方と、個別単位の考え方が同時に求められる問題など)
C 話の内容理解の中に、すべての領域の問題を取り入れていくような、「聞く力」と「理解する力」をかなり高度なレベル組み合わせた問題が多い
「
過去問」にはこうした難しさがあるため、学習課題にする時期を誤ると、子どもにとってとても難しく、そして、その結果、自信をなくしていく結果にもつながっていきます。だからこそ、取り組む時期を間違えないでほしいのです。過去問の難しさがそうした点にあるということを踏まえ、取り組ませる内容は、慎重に選ばなくてはなりません。ですから、「過去問トレーニング」にも、学習の「順序」があるということをしっかり踏まえ、問題の選択を間違えないようにしてください。今の時期に「過去問」に取り組ませる意味があるとしたら、「何がどこまで分かっているか」、もしくは逆に「何が分かっていないのか」をチェックするという点です。そうした使い方ができれば、過去問を使って基礎学習の点検をする・・・という受験勉強においては理想的な学習が可能になります。
では、具体的にどのような順序で過去問に取り組んだらよいのか考えてみましょう。最近、言語領域の問題の中で「一音一文字」に関する出題が多く見られます。その一つに、私たちが「言葉づくり」と呼んでいる問題があります。例えば、2013年度入試においては、以下のような問題が出題されています。
A.言葉づくり(同頭音)
<2013年度入試問題 横浜雙葉小学校>
まず、練習してみましょう。上のお部屋を見てください。ここにあるものの名前のはじめの言葉を使うと右にあるものの名前が作れます。スプーンの「す」、イカの「い」、カキの「か」で「すいか」という言葉ができるので、スイカに○がついています。「リボン」も「とけい」も、左にあるものでは名前は作れません。
・真ん中のお部屋を見てください。左のお部屋のもののはじめの言葉を全部使ってできる言葉はどれですか。右から選んで○をつけてください。
・下のお部屋を見てください。左のお部屋のもののはじめの言葉を使ってできる言葉はどれですか。右から選んで○をつけてください。答えが他にもあったら△をつけてください。
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B.言葉づくり
<2013年度入試問題 光塩女子学院初等科>
・1番上のお部屋を見てください。右にかいてあるものの名前を、左にあるもののはじめの音を組み合わせて作ります。どれを使えばできますか。使うものに○をつけてください。
・真ん中のお部屋を見てください。右にかいてあるものの名前を、左にあるものの真ん中の音を組み合わせて作ります。どれを使えばできますか。使うものに○をつけてください。
・1番下のお部屋を見てください。右にかいてあるものの名前を、左にあるものの終わりの音を組み合わせて作ります。どれを使えばできますか。使うものに○をつけてください。
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C.一音一文字(言葉づくり)・季節
<2013年度入試問題 雙葉小学校>
1番上の(れい)を見てください。お部屋にあるものの名前の真ん中の音は、まくらは「く」、きりんは「り」です。これをつなげると「くり」になりますね。「くり」は秋のものなので、下のお部屋の秋を表すイチョウに○がついています。
同じように、下のお部屋にあるものの名前の真ん中の音を考えて、名前を作ってください。そして、そのものと同じ季節を表すお部屋に○をつけてください。
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これまでの言葉づくりに関する問題は、ほとんどが最初の音をつないでいく上記Aの横浜雙葉小学校のような問題でした。それがBの「光塩女子学院初等科」の問題のように、はじめの音だけでなく、「真ん中の音」「最後の音」というように、つなぐ音の場所が変化しています。またCの「雙葉小学校」のように、「真ん中の音」をつないでできる言葉と季節の常識問題が複合された問題も出題されています。こうした、問題が出題されるきっかけは、2011年度の聖心女子学院初等科の次のような問題でした。
D.言葉つなぎ
<2011年度入試問題 聖心女子学院初等科>
左のお部屋を見てください。まず練習をしてみましょう。ここにかいてあるものの名前の最後から2番目の音ではじまる言葉を探しましょう。エンピツの最後から2番目は「ぴ」ですね。「ぴ」から始まる言葉はピアノなので、エンピツとピアノを線結びしてください。
次にピアノの最後から2番目は「あ」なので、アヒルと線結び……というようにつなげていきます。
右のお部屋にあるものを今練習したお約束で、できるだけ長くつないで、青で線結びしてください。はじまりは分かりません。使わないものもあります。
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これまでは、一番後ろの音を次の言葉の頭に持っていく「しりとり」が言葉つなぎの典型でした。それが「下から二番目の音で始まる言葉とつないでいく」という、まったく新しい発想の問題が出題されたのです。学校側も、子どもたちが「しりとり」と混乱しないように、わざわざ練習問題までさせて行った問題です。しかし、途中でしりとりと勘違いした子が多かったのではないかと思います。この「下から二番目の音」をつなぐ「言葉つなぎ」の問題は、言葉が「いくつの音でできているか」、「どこに何の音がつくか」といった「一音一文字」の考え方を応用して作られた問題です。ですから、こうした応用的な課題に取り組む前に、一音一文字の基礎学習を徹底して行うことが大事です。この春に行った、(こぐま会)室長特別講座では、この課題をテーマに取り上げて、ペーパーでの過去問をやる前に、次のような基礎練習を15枚のカードを使って行いました。
●絵カード15枚を使った、一音一文字基礎トレーニング
<うま・くま・ふね・そり・けいと・すずめ・いるか・こあら・ながぐつ・ろけっと・らいおん・どんぐり・かぶとむし・さつまいも・ゆきだるま>の絵カードを使用
@ いくつの音でできているか
A 最初は何の音か
B 最後は何の音か
C 真ん中の音は何か
D 最初の音を組み合わせて、新しいことばを作る
E 二番目の音を組み合わせて、新しいことばを作る
F 最後の音を組み合わせて、新しいことばを作る
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こうした基礎的な練習をしないまま、様々に工夫された入試問題だけに取り組んでも、必要とされる基本的な考え方が身に付かないまま、効果のない学習を繰り返すことになります。ある学習で得たものの見方を応用し、新出の課題に対して力を発揮できるようにしていかなければなりません。そのためには、基礎をしっかり身につけ、扱う過去問の順序性を明確にした学習を行うことが大事です。
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