第8回
2013年度の私立小学校の入試問題をみると、いくつかの傾向があることが分かります
1 話の内容理解は、話が長くなり、また質問内容が多様化している
2 数の問題は、一場面の絵を使った総合問題として、趣旨の違う様々な問題が用意されている
3 一音一文字の応用問題は、今回は「言葉作り」として出題されている
4 ここ数年多くの学校で出題されていた「一対多対応」の応用である「交換」の問題は少なくなった
5 今回最も注目すべきことは「四方からの観察」の問題が、久しぶりに数校同時に出題されている点である
それぞれの学校で、「考える力」が必要となる工夫された問題作りをしていることがよく分かります。
ある学校で出題された問題が、他校に波及するという事実を見ると、入試問題がどのように作られているのかも予想できます。
2013年度の入試で特筆すべきことは、5で述べた,「四方からの観察」の問題です。この課題は、これまでの入試でもよく出題されていた問題です。しかし、今回の特徴は、同時に数校でつみ木を使った問題が出された点です。これまでの入試では、以下に紹介するように、観察すべき対象物は、具体的なものがほとんどでした。
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◇四方からの観察(東洋英和女学院小学部 2004年度)
机の上のものを、ウサギが向こう側や真上から見ています。ウサギから見るとどのように見えるでしょうか。絵に描いてみましょう。
◇四方からの観察(光塩女子学院初等科 2002年度)
4人の女の子がテーブルの上のものを見ています。これからみんな自分の左側の席に移ります。そうするとそれぞれ見る場所が変わりますね。
・メガネの子からはどのように見えますか。右から選んで△をつけてください。
・髪どめをした子からはどのように見えますか。○をつけてください。
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しかし2013年度入試では、つみ木を使った問題が3校、また方眼紙を使った問題が1校で出題され、観察する対象物がやや抽象的なものになっています。横のつながりがないのに、どうして同じような問題が同時に出題されるのか・・・。それは、その問題が子どもの考える力を見るうえで、最適な問題だからにほかなりません。今年の問題は、次のようなものでした。
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◇四方からの観察(H校 2013年度)
動物たちが、机の上のつみ木をまわりから見ています。このつみ木は、上のお部屋のつみ木を使って作ったものです。それぞれどのように見えるか考えてください。
・それぞれの場所から見ると、どのように見えますか。右のお部屋から選んで○をつけてください。
◇四方からの観察(K校 2013年度)
机の上のつみ木を動物たちが見ています。カタツムリから見ると、つみ木は左上の四角の絵のように見えます。では、他の3匹はどのように見えるでしょうか。右から選んで、それぞれの印をつけてください。
◇四方からの観察(R校 2013年度)
動物たちが、まわりから四角を見ています。それぞれの方から見ると、どのように見えるか考えてください。
・ダイヤのお部屋を見てください。イヌから見ると、どのように見えるでしょうか。右から選んで○をつけてください。
・スペードのお部屋を見てください。絵のように見えるのは誰でしょう。○をつけてください。
動物たちが、まわりから四角を見ています。
・ハートのお部屋を見てください。イヌから見ると、どのように見えるでしょうか。○をつけてください。
・クローバーのお部屋を見てください。絵のように見えるのは誰でしょう。○をつけてください。
◇四方からの観察・つみ木の数 (Y校 2013年度)
左にあるつみ木を矢印のほうから見ると、どのように見えるでしょうか。右のお部屋から選んで○をつけてください。また、いくつのつみ木でできていますか。その数だけ下のお部屋に○をかいてください。
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では、なぜ「四方からの観察」が大事なのか・・・・この点をしっかり把握しておかなければなりません。「四方からの観察」は、こぐま会の5領域指導の中では「位置表象」の領域に入る内容です。基本的な位置関係である「上下」「前後」「左右」の3つの位置関係を理解したうえで、「前後−左右関係の理解」の一つとして「四方からの観察」を設けています。一つの物を違う4つの位置から見た時、どのように見えるかを、その場に行かないで考える問題です。とくに、向こう側からの見え方において、左右関係が逆になり難しくなります。私たちはこの指導を2回に分けて行っていますが、最初の授業は、次のような内容で指導しています。最初からペーパーだけの練習で理解できる課題ではありませんので、実体験をすることが大事です。
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第19週(位置表象4)
テーマ 四方からの観察
意 図 一つのものが、場所をかえてみると違って見えることを経験する
内 容
(1)ヤカンの写生
イ)ヤカンをまん中にして、四方に子どもが並ぶ。自分の座っている場所から、ヤカンがどう見えるか、見えたとおりに写生する
ロ)子どもたちの作品をもとに、どこから見た絵かを話し合う。
(2)場所さがし
イ)ヤカンの略図を子どもに4枚持たせて、指示した絵は、どこに座って描いた絵なのかを考えさせて、その場所に座らせる
ロ)教師の座った場所からヤカンがどのように見えるかを考えて、4枚の略画の中から該当する絵を選ぶ
ハ)反対側から見たらどう見えるのかを4枚のカードの中から選ぶ
例)くまのぬいぐるみ、ジョーロ、 花びんと花
(3)ペーパートレーニング
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このように、1つの具体物の見え方を練習したあと、2つ、3つと数を増やしていき、その見え方を具体物を使って考えさせています。
2013年度の問題が具体物ではなく、やや抽象的な「つみ木」や「方眼」が使われたのは、それなりに理由があることでしょう。また、その分難しくなっており、学校側の工夫が見てとれます。この四方からの観察は、昔からある典型的な入試問題ですが、ここまで同じような問題が、数校で同時に出題されているのは驚きです。ところで、四方からの観察の問題は
1 空間認識、とくに「左右関係」がしっかり理解できているかどうかの点検になる
2 視点を変えてものを見る眼を養う練習にとても良い
3 「人の立場に立って物事を考えなさい」という社会性の発達に通じる課題でもある
というような教育的な意味があります。この「四方からの観察」は図形教育の前提になる、「空間認識」を育てるための大事な内容として、今後も出題され続けていくでしょう。また、空間認識だけでなく、「視点を変えてものごとを見る」ことができるかどうかという点においても、「論理的思考力」を支える基礎作りとして大変重要な課題となっていくはずです。
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