第6回
小学校入試における「言語」領域の問題は、将来の国語科に発展していくものとして考えておく必要があります。小学校以降の国語科は、「聞く力」「話す力」「読む力」「書く力」の4つの柱で構成されています。就学前の入試では、「聞く力」と「話す力」を問う問題と、幼児期にやっておかなければならない「ことばの学習」の3つの観点で問題が考えられています。
聞く力は、どんな活動・どんな学習においてもその前提として大事ですが、この領域で問われる聞く力は「話の内容理解」の形をとって出題されています。一定の長さの話を聞かせて、その内容に関して「登場人物」「順序」「数」「登場人物の行為」などを問われます。また「お話作り」は、4枚ほどの絵カードを時間的順序に並べて、それを使ってまとまった話を作る課題が基本です。
「ことばの学習」では、母国語である日本語の理解を深めるものとして、一音一文字、同頭音・同尾音、しりとり、動きを表す言葉、様子を表す言葉、同音異義語など「ことば遊び」の要素をたくさん取り入れながら問題が作られています。
こうした言語領域の問題が、最近の入試ではいろいろ工夫されて変化しています。そのため基本となる上記の学習に、新しい傾向の問題を加味した学習が必要となっています。
では、どのように工夫されて新しい問題になっているか実際の問題を紹介しましょう
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■言葉つなぎ■
左のお部屋を見てください。
まず練習をしてみましょう。ここにかいてあるものの名前の最後から2番目の音ではじまる言葉を探しましょう。エンピツの最後から2番目は「ぴ」ですね。「ぴ」から始まる言葉はピアノなので、エンピツとピアノを線結びしてください。次にピアノの最後から2番目は「あ」なので、アヒルと線結び……というようにつなげていきます。
・右のお部屋にあるものを今練習したお約束で、できるだけ長くつないで、青で線結びしてください。はじまりはわかりません。使わないものもあります。
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この問題は、従来のしりとり(前のことばの最後の音を、次のことばの頭に持ってくることば遊び)を変化させて「下から2番目の音でつないでいく」という問題です。多くの子どもたちが「しりとり」と勘違いすることを予想した学校側は、わざわざ練習問題をさせてから取り組ませています。これは「一音一文字」の課題である「いくつの音でできているか」「どこに何の音がつくか」と言った考え方を応用した問題です。この一音一文字の考え方は、日本語の文字指導の基本にある考え方で、ある時期から突然小学校入試で使われ始めた問題です。また、次のような問題としても発展しています。
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■言葉づくり■
左側にかいてあるものの、はじめの音を使ってできる言葉は何ですか。右に並んでいるお部屋から選んで、上の□に○をかいてください。はじめの音の順番をいろいろ変えて考えてください。
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この問題は、ことばの最初の音を使って、新しいことばを作るということば遊びです。最初が何の音かをしっかり把握して、その組み合わせで新しいことばをイメージしなくてはなりません。全ての音が準備されているわけではないため、制限された音の組み合わせを考えなくてはならない点が幼児にとって難しいはずです。
二つの応用問題をご紹介しましたが、一音一文字の基本となる問題は次のような問題です。
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■一音一文字■
左側の例を見てください。「きりん」は3つの音でできているので、絵の下に○が3つかいてあります。そして「き」と「ん」の場所の○は黒い●になっているので、「き」と「ん」のつく名前を右から探して線結びしています。そうですね。「きんぎょ」です。
・右側を見てください。並んでいる○の中で、黒い●になっている場所の音がどんな音になるのか考えて、同じ音がつくものと線結びしてください。真ん中の列と右の列も同じように線結びしてください。
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基本となる問題が、どう発展していくのかを踏まえれば、やはり発展した応用問題の前に基本をしっかり身につけなくてはいけません。基本をしっかり身につけることは、問題が難しくなればなるほど必要になってきます。どのように問題が発展していくか予想がつきませんので、入試で出た問題だけをパターン化して練習しても新出問題に対応できる力は身につきません。過去問だけのトレーニングではいけない理由がお分かりだと思います。
次に、押さえておく必要のある点は「話の内容理解」の問題が変化しているという点です。では何がどう変化しているのか。それは2つの点に集約されます。
@ 絵本のように、一つのまとまった長い話の展開の中で様々な領域の問題が問われます。途中で話を止めて、例えば数に関する質問をして、また話が続く。そしてまた止まり、今度は図形に関する質問をする・・・・というように、「聞く力」と各領域の問題が組み合わさって、話が終わるまでに6〜7問の問題があり、すべての領域から出題されます。まだ少数ではあるが、確実に新しいタイプの問題であり、今後の傾向を示す問題でもあります。
A @と関係があるが、従来の長さの問題でも質問される内容が多様化してきています。とくに話を記憶するという要素よりも、話の中身をどれだけ理解したか・・・という観点で質問されるケースが多くなっています。
この2点を注意して練習する必要があります。典型的な問題をご紹介しましょう。
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■話の内容理解■
・ペーパーを裏返してください。次のお話を聞いて後の問題に答えてください。
キツネのコンタ君は、冬が近くなったので、お母さんと一緒にマフラーと帽子を買いに行きました。お母さんはポケットに木の実を9個入れて持って行きました。キツネの親子は、ヒツジの毛糸屋さんに行きました。お店の外で、ヒツジのおばあさんが編み物をしていたので、コンタ君は「何してるの?」とたずねました。ヒツジのおばあさんは「ウシさんに肩掛けを編んであげてるのよ。ウシさんは寒い冬でもたくさんのミルクを作ってくれるからね」と言いました。
コンタ君は、帽子とマフラーを買いました。帽子の色は赤にしました。マフラーには、お日様の模様がついていて、帽子には月の模様がついていました。帽子の上にはボンボンがついていました。コンタ君はそれを見て「きれいだね」と言うとヒツジのおばあさんが「それはウサギさんの尻尾の毛を分けてもらって作ったのよ」と教えてくれました。お母さんは、ヒツジのおばあさんに木の実を2個渡しました。すると、ヒツジのおばあさんがコンタ君に、おばあさんが編んだ星の模様の手袋をくれました。そして「これはお返しよ。いっぱい雪で遊んでね」と言いました。次にコンタ君とお母さんは、何でも売っているクマのお菓子屋さんに行きました。窓には特売日という字と、その下には「お菓子をいくつ買っても、お店では木の実2個だけもらいます」とかいてありました。
お店の中に入ると、クマさんはいなくてネコさんがいました。「どうしてクマさんはいないの?」と聞くと、「クマさんは冬の準備で忙しいから、私がお手伝いをしているのよ」と言いました。コンタ君は、クッキーと蜂蜜パイを買いました。お母さんは、また木の実を2個ずつ渡しました。でもネコさんは、2個でいいんですよと、2個返してくれました。木枯らしが吹くと、もう冬ですね。
問1.お母さんが持っていた木の実は、いくつ残りましたか。その数だけ木の実のお部屋に○をかいてください。
問2.出てきた動物に○、動物たちのお話の中にだけ出てきた動物に×をつけてください。
問3.コンタ君のマフラー、手袋、帽子にはどんな模様がついていましたか。線結びしてください。
問4.このお話の季節と関係があるものに○をつけてください。
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さて、最後に「お話作り」に関しては、次の2点に気をつけて対策をとってください
@ 絵カードを使って話を作る場合、基本は4枚であるが、最近ではそれが3枚となり2枚となり、場合によっては、1枚だけで・・・ということもあります。枚数が少なければ少ないほど、子どもにとってはまとまった話が作りにくくなり、また原因と結果を踏まえて話を作るために、人間の表情の変化を読み取らせて、話を作るような問題も出始めています。このように、将来の作文教育との兼ね合いを考えた出題が増えています。
A 絵カードを使った「お話作り」だけでなく、入試全体として「コミュニケーション能力」を求める問題が増えています。とくに行動観察における話し合いの場面で、そうした能力が求められています。「話す力」の育成をそこまで広げて考えて、ペーパーやカードを使った学習だけでなく、実際の生活や活動の中で、自己表現力を高める経験を積んでおくことが好ましい。
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■お話づくり■
・絵をよく見てください。お医者さんは何と言っていると思いますか。お話ししてください。
・注射の順番を待っている女の子は、どんな気持ちだと思いますか。
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以上、3つの柱となる内容を踏まえて、新しい傾向の問題とその対策について述べましたが、言語の領域においても、基礎が何で、応用が何で・・・という点を踏まえた学習をしないといけません。
入試で出題される形は、いろいろな要素が絡み合った応用問題です。その形をそのまま「過去問」として練習するような方法では、力はつきません。基礎をしっかり固めて、その上で入試問題に象徴される応用問題に挑戦しなければなりません。結果だけを早く求めるような、あせった気持ちでは、しっかりとした能力は身につきませんので、着実に基礎から応用へと積み上げていくような学習法を実行してください。
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