第5回
小学校入試において出題される問題の中で、数に関する問題が一番多いようです。学校によっては、数の問題が一切出題されないという場合もありますが、昔から「読み・書き・そろばん」と言われたように、学力の基礎を形成することですので多いのは当然です。しかし、決して小学校で行う計算問題が出題されるわけではありません。生活の中における数体験をもとに、絵や話によって具体的場面を提示し、数に関する様々な問題を考えさせるという形式で出題されます。
数の学習=計算練習と考えている方が多く見られますが、実際の問題を見れば、それが間違いであることはよく分かります。では、どのような考え方で学習を進めたらよいのでしょうか。その対策を考える前提として、まず実際の入試問題をよく確認していただき正確な情報を持つことが大事です。その上で、次のような手順で学習を進めるのことが、子どもの理解の道筋に合って、無理なく学習できるはずです。
1. 数を正しく数える 数唱・計数・分類計数・同数発見
2. 順序数の考え方 量の系列化・数の系列化
3. 集合数の考え方 分類・数の構成
4. 足し算・引き算の基礎 数の構成・一対一対応・数の増減
5. 掛け算の考え方 一対多対応
6. 割り算の考え方 数量の等分・包含除(数のまとまりを作る)
7. 総合問題 数のやりとり・交換・話の内容理解における数の変化
以上7項目で示した内容を順に学習していくのが効果的です。それぞれの項目で入試問題は作成されていますし、どれもとても大事な内容ですが、最近の入試問題の傾向は、やはり7の総合問題で示した内容が多く見られます。その中でもとくに「交換」の問題が新傾向の問題としてクローズアップされています、例えば次のような問題です。
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☆雙葉小学校
【交換】 (2008年度)
上のお部屋を見てください。
メロン1個は、ドーナツ2個と換えてもらえます。
食パン1斤は、メロンパン2個と換えてもらえます。
ハンバーガー1個は、メロンパン1個とドーナツ1個と換えてもらえます。
・メロンパン4個は、食パンいくつと換えてもらえますか。その数だけリンゴのお部屋に○をかいてください。
・食パン2斤は、ドーナツいくつと換えてもらえますか。その数だけブドウのお部屋に○をかいてください。
・ハンバーガー4個は、食パンいくつと換えてもらえますか。その数だけバナナのお部屋に○をかいてください。
☆聖心女子学院初等科
【一対多対応の応用(交換・置き換え)】 (2012年度)
左側の絵を見てください。
絵本1冊と、鉛筆2本、消しゴム4個は、同じ値段です。
花子さんは絵本を2冊買いました。
・絵本2冊と同じ値段で買えるものが入っているカバンを、下から探して青い○をつけてください。
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こうした問題の基礎が、掛け算や割り算の考え方につながる「一対多対応」にあることはいうまでもありません。そのため、総合問題をそのままの形で繰り返し練習しても意味がありません。その基礎となる、1〜6までの内容をしっかり学習してから、そのまとめとして「総合問題」を行うべきです。間違った受験対策は、1〜6の基礎問題をしっかり学ばせず、7の総合問題だけを「過去問」として取り組ませるような学習をしています。それでは、自ら解く力は身につきません。しっかりとした基礎作りをしてから、難しい問題に挑戦させるべきです。では、各項目を学習する場合、どのようなことに気をつけたらよいのでしょうか
1.必ず、数字だけの世界で操作させないようにし、生活場面を思い起こすような語りかけをしながら楽しく学ぶようにすること
2.そのためにも、必ず具体物やカードを使い、考え方の基礎を身につけてからペーパー学習に進むこと。決して最初からペーパーだけのトレーニングにしてしまわないこと
3.暗算能力(数の内面化)を高めるために、指で数えることは最初から絶対にしないこと。最初のうちは指を使った方が早く答えが出せますが、みんなが暗算できるようになった時(大体年長の7月頃)まだ指を使って数えていると、かえって遅くなり正確さも欠くことになります。それだけでなく、小学校に入学してからの計算スピードが極端に劣ります。
どうしても分からない場合は、おはじき等を操作させて考えさせる。一旦指に頼ってしまうと、便利なものなのでそれから抜け出るのに苦労します。それならば、最初から指に頼らない方法を身につける事。とくに話を聞いて数の問題を解く場合には、暗算能力がないと答えを出せません。暗算は10以内の数で十分入試問題に対応できます。
4.どの段階から暗算練習が可能かと言えば、数の構成の問題からが一番良い。その後の学習においては、具体物を使い、ペーパーを使い、最後にお話を聞いて問題を解くというように、同じ趣旨の問題を、具体物・ペーパー・口頭(暗算)というように進め、決して最初から暗算だけに取り組ませるようなことはしない。
5.数の問題に自信がつくと学習意欲も増し、学力全体がアップする。家庭学習においてもやり方を間違えて、数の問題に苦手意識を持たせないように留意していただきたい。その意味で、他の領域よりも、少し力を入れて学習することが大事である。
数の学習が計算主義ではだめなことは入試問題を見ていただければよく分かるはずです。逆にいえば、数に関する小学校の入試問題は「考える算数」につながる大変良い問題であることが分かります。ですから、それに取り組ませることは、受験だけでなく将来の算数科の学習につながる、とても良い学習経験になると思います。ただ「指を使ってでも答えさえ出せればよい」と考えたのでは、将来の学習にかえってマイナスになりますので、その点だけは注意してください
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