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「模擬試験の受け方と結果の受け止め方について」 |
久野泰可先生からのお答え
模擬試験についてのご質問がたいへん多く寄せられているようです。
問題を作る側の人間として、これまでの経験をもとに、どのように考え受験したら良いのかをお伝えします。
「いろいろな種類のテストをたくさん受けたら良いのか」、「結果を信用して良いのか」、「一喜一憂してしまい精神的に不安定になるのですが・・・」など、いろいろな質問が寄せられているようです。
私の教室でもいくつかのテストを行っていますが、目的や内容の組み立てがそれぞれ違っています。
・ステップ別発達診断テスト 教室の授業で学習したことが、しっかり身についているのかを見る、
会員専用のステップ別テストです
・公開実力テスト 会員・一般を問わず、範囲を予告して行うテストです
・学校別模擬テスト 各学校の出題傾向に合わせて行うテストです
・合―不合判定テスト 500名規模の総合テストです(6月・8月末)
・個別学力診断テスト 1年間を4期に分け、具体物を使った1対1のテストによって、弱点を
明らかにし、家庭学習の指針とします
模擬テストにはいろいろな利用の仕方があります。教育的に考えるならば、学習したことがどれだけ身についたかを見るテストが原則です。しかし、実際の試験は、総合テストですから、すべての基礎学習が終わった段階では総合テストを受け、不十分なところを確認して、家庭学習で解決させなくてはなりません。
問題はいつ・どんなテストを受ければよいかということです。私たちは夏休み前までに、入試で必要とされる学習をほぼ終えるよう、1年間の授業内容を組んでいます。ですから、他流試合の模擬テストは、原則として7月以降受けるようにお願いしています。なぜなら、学習していない内容がテストで問われれば出来ないのは当然だからです。それがわかっていても、結果が出れば一喜一憂してしまい、焦る気持ちだけが独り歩きしてしまいます。受験前の子どもたちが物事を理解する力は、1年間で大きな伸びを示します。しかし、入試の1年も前に、過去問を自分の力で解くようなことはまず無理でしょう。学習の積み上げがあってこそ、入試レベルの学力に到達するのです。ですから、最初の半年間ぐらいは、できるだけ通っている教室の授業進度に沿って作られたテストを受けるのが良いと思います。
私たちの教室でも、5月半ばで基礎学習を終えます。ここまでで、大体入試問題の8割はカバーできます。ですから、第1回目の合不合判定テストは6月に行い、ここでは入試の基本問題を出題します。第2回目は夏休みの終了時に行います。これは、夏休みに頑張って身につけた応用力を点検します。教室に通わず、家庭学習だけで模擬テストを受ける場合は、相当の準備をして臨むべきです。出題範囲があらかじめ分かっていれば、その課題を学習して臨む必要があるし、総合問題であるならば、どの程度の難易度かも確認してから受けるべきです。「つりあい」の学習を終えていない子が、難しい「つりあい」の問題を与えられてもできないのは当然です。結果を信用して良いかどうかは、そうした準備との兼ね合いで考えるべきです。
模擬テストの結果と、実際の入試における合不合とが、どのように関係があるのかないのかは、中学校入試や高校入試のように、簡単には判定できないのが、小学校入試の特徴です。私がいつも強調していることですが、「小学校入試は実力主義だが学力主義ではない」という点が大きく違うのです。ペーパーテストの点数で合否が決まる試験ならば、模擬テストの結果によって、合格の可能性を数値化できます。しかし、ペーパーテスト・行動観察・面接等の総合判断で合否が決まる今の入試では、模擬テストの結果がすべてではありません。私たちも、模擬テストの結果と実際の合否の関係を毎年分析していますが、最後の学校別模擬テストの結果がそのまま入試結果につながる学校と、つながらない学校があります。実力主義でありながら、成績上位6名が全員不合格というケースもありました。
ですから、模擬テストの結果が良かったからと言って安心できません。点数化される客観テストは、小学校入試では合否判断の大事な柱の一つではありますが、それだけがすべてではありません。そのように認識して、模擬テストの結果を受け止めてください。数値化された結果よりも、何ができて何ができなかったかの内容吟味が必要です。そのためには、テストの結果が数字だけで返却されるような模擬テストでは意味がありません。ペーパーテストは、テスト本体が返却されればそれを見ればどこが解らなかったのかよく解りますが、個別テストや行動観察は、どのように答え、どんな説明したのか、どのような活動をしたのかが記載されていなかったら、点数だけでは意味がありません。私たちは、テスト中の子どものそうした動きをできる限り記録し、それを保護者に伝えています。模擬テストの結果がどのように返却されるのかもしっかり確認してから受けてください。
問題を作る側からもうひとつお伝えしておかなくてはならないことがあります。それは、平均点と難易度との関係です。先ほど述べましたように、3月に行うテストと6月に行うテストでは全く意味が違います。ある時期のテストが適切であったかどうかを見るひとつの指標は、平均点がどれくらいかです。問題を出す側から言えば、テスト問題は難しくもできますし、やさしくもできます。子どもの発達に適切かどうかは、入試問題の難易度を参考にすべきです。私の経験では、各学校によって難易度はまちまちですが、大体平均点が70点前後になるのが本番の試験だと思います。つまり、その時期の子どもたちの学習の進展に合わせ、大体平均点が70点ぐらいになる問題が適切だということです。3月に行うテストの平均点が70点の問題と6月に行うテストの平均点が70点とでは内容が全く違います。逆にいえば、平均点が70点前後の問題を子どもの成長に合わせて作ることができるかどうか、教師の力量が問われます。その点が、模擬テストを作る側の私たちが一番苦労するところです。平均点が50点以下の難しい模試を何回受けても、実際の入試対策にはならないということです。
夏休み前までに受ける模擬テストの結果は、数値化されたものよりも、どこがわかっていて、どこがわかっていないのかを知り、家庭学習の参考にするよう受け止めてください。また、7月以降のテストについては、総合力が身についてから受けるテストですから、数値化された結果もしっかり受け止め、学校選択、特に併願校選びに生かす必要があります。本番の試験で合格を勝ち取るために、模擬テストの受け方や結果の受け止め方をもう少し教育的に考える必要があります。範囲をきめて私たちが行っている「公開実力テスト」は、そうした教育的意図をもって行っているテストの一つです。
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