私立小学校 特集 3
『日本私立小学校連合会
西日本私立小学校教員研修会』
『日本私立小学校連合会 第52回西日本私立小学校教員研修会』の研究報告を掲載します。
私立小学校では、よりよい授業を行うために部会ごとに研修会を開き、意見や提案を発表し、指導力向上に努めています。
是非、お読みください。
国語部会 ノート指導の実践等報告
午前中の小林聖心女子学院の先生方による公開授業は、一年生「かきとかぎ」(中條美穂子先生)、三年生「ありの行列」(西山順子先生)六年生「カレーライス」(西村理恵子先生)。一年生ではへんしんボックスを用いた楽しい授業、三年生では劇化を取り入れながら説明文を読み取る授業、六年生ではひとり学習をふまえた読みの深い授業と各学年に応じた興味深い授業を参観できた。五年生では初めての試みとして、小中連携授業も行われた。小学校の河本周介先生と中学校の田嶋真貴子先生が交代で授業をしながら「新しい友達」を読み解いていく授業だった。
午後からは、前半は三分科会に分かれて研修を行った。午前中の授業研究の後、低学年分科会では、京都女子大附属小学校が「国語力は人間力」を合言葉に四年間積み上げてこられたノート指導について、日下知美先生・酒井愛子先生・田豊恵先生が低・中・高学年の取り組みをそれぞれ紹介された。
高学年分科会では、城南短大附属小学校の茶谷成信先生が、読解力向上を目指しPISA型読解力を身につけさせるために大切だと考え取り組まれた「ごんぎつね」の学習について紹介された。
新人部会では、国語学習に関する悩みなどを出し合い、講師の杉田圭一先生(追手門)、司会の辰巳喜之先生(奈帝塚山)から助言を受けていた。
全体会は、作家の山下京子先生をお招きして『彩花がおしえてくれた幸(しあ)福(わせ)〜絶望の中に希望を拓くとき〜』という演題でご講演いただいた。娘の彩花ちゃんが殺害された日の様子から始まり、報道被害の様子や彩花ちゃんのお兄ちゃんの心の悩み、そういうものを乗り越えてできた家族の絆などについてお話しされた。つらい内容だからこそ淡々とお話される山下先生のお話に勇気と励ましを頂いただけでなく、改めて、言葉が伝える重みを感じるご講演だった。
(甲南小学校)
算数部会 日常生活と関連させる教材
算数部会では、小林聖心女子学院小学校の光宮英俊先生による「ふえたり へったり(二年生)」、松居恵子先生による「調べ方と整理のしかた(四年生)」の公開授業が行われた。
光宮先生は、変量に着目させて「まとめて解く」ことの良さに気づかせる授業となった。松居先生は、日常生活と算数を関連させる教材を用意し、『春がきた』の音調べを通して分類整理の仕方を考えさせ、整理する良さに気づくことができる授業となった。
午後からの分科会は、「低学年部会」「高学年部会」の他に、同志社小学校の太田誠先生による「算数入門講座が行われた。多数の参加者で盛況な会であった。
全体会では、筑波大学附属小学校の夏坂哲志先生によるご講演「『思考力を育てる授業』―伝え合う場をつくるコツ―」があった。授業づくりのコツとして、「一度に多くのものを見せない」「価値のある間違いを見逃さない」「大事なことは、子どもに言わせる」などについて説明していただいた。また、九九表や数字カードを使った問題などを参加者が一緒に考えながら具体的な指導についてのお話があった。
夏坂先生の温かいお人柄にひきこまれ、まるで教室で授業を受けているかのような雰囲気で、あっという間に時間がたってしまった。
(百合学院小学校)
社会科部会 生きる力育成へつながる研修
教室掲示からみた学級づくり
学級経営部会では、須磨浦小学校の佐山公章先生に「教室掲示から見た学級づくり〜リッチモンド小学校(米)を訪問して〜」というテーマで提案発表をしていただいた。
佐山先生は教室掲示について悩んでいたところ、学校交流で訪問したアメリカのリッチモンド小学校の教室掲示にカルチャーショックを受けたそうだ。
掲示板はもちろん、教室や廊下の壁に、とにかくカラフルでポップ、派手なデコレーションでクラスルールやインフォメーションが掲示してあったそうだ。
佐山先生の説明を受けながら、掲示の様子を撮影した写真を実際に見て、その掲示に対する考え方の違いに我々も驚いた。
とにかく派手で雑然としているが、子どもの作品や学習内容、地図や社会情勢、時事問題までもが分かりやすく掲示されている。
また、ほめる言葉やうれしい言葉がふんだんに使われていた。
リッチモンド小学校の訪問を通して、佐山先生は「明るく、楽しく、分かりやすく、遊び心を忘れずに」をモットーに、これからも教室掲示に取り組んでいきたいということです。
佐山先生の提案発表の後、今回の提案を受けて、五、六名のグループに分かれ、話し合った。
(賢明学院小学校)
理科部会 コミュニケーションの活性化
公開授業では、三年ゆり組で桑木房子教諭による「ものと重さ」、五年ゆり組で三澤尚久教諭による「物のとけ方」の授業が行われた。
学校全体の研修テーマとして「思考力の育成」を掲げ、理科でもそのテーマに沿って、頭の中身を一旦外に出す「外化」もしくは「可視化」を手だてとして子どもたちのコミュニケーションを活性化させていく取り組みをしておられるということであった。
三年生では思考を外化させる手だてとして「予想図」を基に考えさせておられた。見やすく、子どもたちにとっても視覚的にとらえやすいものであった。子どもたちがとても和やかに落ち着いて実験している姿が印象的であった。
五年生では可視化の手だてとしてモデル図や運勢ラインという方法を取り入れられていた。班の中での話し合いがきちんとできていて、ねらいの一つが達成されていると感じた。
後半の講演会では、京都教育大学副学長の岡本正志先生に「科学知の確立における実験の意義」というテーマでお話しいただいた。
現在の理科教育の問題点などについても言及され、実験観察を大切にしている教科ならではの貴重なお話を伺うことができた。
(百合学院小学校)
家庭科部会 視覚的な工夫を加える
午前の公開授業は、小林聖心女子学院の野村陽子先生により五年生の「ポケットティッシュカバーをつくろう!」が行われた。
本時の課題は、ティッシュを出し入れする布と布の縫い合わせ部分をどう縫えばよいかであった。
図や実物投影機を利用し視覚的な工夫を加えながら考えさせておられた。子どもたちは、縫い合わせ部分を何度も縫う、小さな目で縫うなど、既習した知識を基に発表した。試し縫いのできた児童に縫い方を発表させ、次時へとつなげられた。
午後の部会では、野村陽子先生が、小林聖心女子学院の家庭科のカリキュラムを紹介されながら、思考力の育成をテーマにした授業を進めていることをお話しされた。参加者は「子どもたちは理解はしても技術を伴う作業を進めることが難しい」など家庭科での課題を挙げ、どんな教材で何をどのように伝えていくのか、各校での取り組みを意見交換した。
次に、天理小学校の奥田悦子先生により「マイ箸袋をつくろう」と題し、提案実習が行われた。五年生の初めに学習する基本的な裁縫の技法を生かし、さらに「給食のマイ箸をオリジナルの箸袋に入れよう」と動機付けされたマイ箸袋作りの実践提案であった。
(天理小学校)
生活総合部会 「あそびばへいこう」を参観
永山啓子先生指導による一年生の生活科の授業「あそびばへいこう」を参観し、事後研究会をもった。
緑いっぱいのロザリオ・ヒルで活動し、その経験を歌にするという今回の授業は、子どもたちにとっても新鮮なものであった。四人グループによる歌詞作りは、伝えたいことが次々と出てくるようであった。それを歌詞という制限の中にどのように凝縮させるか、それぞれのグループで熱心に考えを出し合う姿が見られた。歌詞が早くに完成したグループは歌う際の振り付けを考えるなど、どの児童も楽しんで活動している様子であった。子どもたちが心から楽しんだ経験は、子ども自身もいろいろな方法で表現したがるものだということをあらためて感じた。
提案発表の部は、人名の先生方に各学校での生活科、総合的な学習の時間の実践をお話しいただいた。
授業を進める中で疑問に思われたこと、他の先生方にご意見を伺いたいことを出していただき、それに対して多くのアドバイスをいただくことができた。また、それぞれの取り組みに対する考えを自由に交換する時間をとることができ、たいへん有意義な時間となった。生き物の飼育教材では、内容が道徳的な分野にまで及んだ。
貴重な実践発表を、参加者全員で共有した。
(雲雀丘学園小学校)
図工部会 五感を使い絵を描く
田村めぐみ先生(小林聖心)による二年生「これ いいかんじ」の公開授業が行われた。
小麦粉に水を加えて小麦粉絵の具を作り、指や爪を使って模様や絵を描く課題だった。児童たちは、どきどきした様子で、小麦粉に少しずつ水を混ぜて夢中でこねていく。「気持ちがいい」「何か匂いがする」などの声が聞こえてくる。五感を使い制作している。画面いっぱいに線を描く児童、ハート・星・顔をのびのびと表現する児童。子どもたちの思いが膨らんでいくことがわかる。行いや作品を先生に見てほしくてたまらないという様子。あっという間に時間が過ぎる。
多様な小麦粉絵画が机上に並び「楽しかった!」と言う児童のにこやかな表情が印象的だった。
午後からの大橋直先生(仁川)による実践報告では、動物の口の形を工夫した「パクパクアニマル」、そして、「しゃぼん玉はじけると」では児童たちが、色のついたシャボン玉液をストローで吹いて制作を楽しんでいる様子を映像で紹介。
次に図工の授業で実践され、鑑賞教育にも役立つアートカードゲームを参加者全員で楽しく体験した。最後に、清水正志先生(奈帝塚山)と村田沙和香先生(大聖母)に自校の作品展の様子を紹介して頂きました。奈帝塚山の美しい灯りの作品や造形感覚豊かなお面の焼き物、大聖母のステンドグラスと木で作られた家の立体作品や文字をデザインした木版画、かわいい雛人形作品。両校のとても素敵な作品展の様子を観て、会を終えた。
(帝塚山学院小学校)
保健体育部会 短なわと長なわの公開授業
まず公開授業として谷垣英彦先生(小林聖心)による、三年生「短なわと長なわ」の授業を見せていただいた。
谷垣先生の得意種目であるだけに、すばらしい模範演技も交えながら授業が展開された。
子どもたちも積極的に参加し、自分たちでどんどん難しい技にチャレンジしていた。特に短縄と長縄を組み合わせた跳び方には目を見張るものがあった。
授業研究では、児童の積極的な取り組みが好評だったほか、運動量も十分確保されている上に、指導も行き届いていて素晴らしい内容であったとの反応があった。
指導校長からは、「授業者の谷垣先生がとても元気だった。先生が元気な授業は子どもも元気になる。長縄を跳びながら短縄を跳ぶ今回の課題は難しいが、面白く、試す価値がある」とのコメントがあった。
続く提案発表は、広島から来てくださった安田学園の新本惣一郎先生から「安田学園の体力作り」というテーマで提案発表があった。色々なデータに基づき、長年同校で体力作りの実践をされてきただけに、内容の深い発表であった。また、一方では、新体力テストのデータによる考察に対して、それだけで十分なのか、もっと幅広く「体力」をとらえ考察していく必要があるのではないかとの指摘もあった。
一方、保健分科会では、同志社小学校スクールカウンセラーの高田みぎわ先生による「発達支援と子どものストレスマネジメント教育」と題した講演があった。(帝塚山小学校)
外国語部会 新技術に組み込んで授業
坂道の木々の緑が美しく、自然がいっぱい感じられる丘の上にある小林聖心女子学院小学校で研修会が行われた。 外国語部会は「教育技術の向上を目指して」をテーマにし、「公立小学校への本格的英語活動導入を見据えて、私学が積み上げてきた英語教育に新しい技術を組み込んでの授業を分かち合う」をサブテーマにして、授業研究の公開授業が行われた。
一年生を対象にした授業が公開された。一クラス二十八名を半分に分け二つのクラスにした一年生の授業であった。一週二時間の英語の授業を半分の人数で、一回はネイティブの先生、もう一回は日本人の先生で、全て英語で行われる授業であった。スマートボードを使って、インターネットから取り込んだ教材を使って子どもにスピードと意欲をかき立てながら色の学習をしていたグループ、もう一方のグループは小さい時の音の違いの聞き取りの良さを使って、英語の発音と日常的にカタカナで表記されてあたかも英語であるかのように生活の中に入ってきている英語の音の違いを五感を通して、感じさせ、正しい英語の発音の仕方を真似させる授業で、英語の授業の中でいかに子どもたちが思考力を働かせているかを見るのがねらいであった。
午後からの研修会では、授業についてと提案発表がおこなわれた。提案は「公立小学校における英語活動国際理解活動の動向レポート」を報告して頂いた。
(小林聖心女子学院小学校)
学校図書館部会 図書資料を用いて総合的な学習
提案授業として、四年生の総合的な学習の授業を図書館で実施した。
自分たちが持っている水のイメージをどう具体化して調べていくかを図書資料を用いて調べ方を調べる授業であった。四年生になって初めての調べ学習であり、いつもの疑問を調べるという形の学習ではなかったので、教師の思った方向へはなかなか進まなかったが、「調べ学習の手引き」を用いたり、情報カードの活用をしたりという調べ学習の進め方について一つの提案はできたかと思う。
午後は、「調べ学習は生涯学習だ!」というテーマで小林聖心女子学院小学校における総合的な学習の中の調べ学習のカリキュラムについてと、学校図書館の役割についての提案があった。授業研究で、様々な情報が氾濫する現代だからこそ、学校図書館ならではの指導のあり方が大切であるという意見に多くの方が頷かれていた。
その後、正置友子先生(絵本学研究所主宰・青山台文庫主宰・関西学院大学大学院非常勤講師)から「子どもたちと絵本の扉をひらく」という題で、講演を伺った。子どもたちの発達年齢と絵本の関わりについてお話されながら、各国の五十冊近い絵本を紹介してくださった。
芸術としての絵本のとらえ方や子どもの人生への役割は、私たちが今まで考えていたのとは異なる視点から絵本を見ることができ、世界が広がったように思う。
(小林聖心女子学院小学校)
視聴覚部会 テレビ会議システムで交流各地方の特色生かした内容
視聴覚部では今年度も「視聴覚教材による教育の活性化」を研究主題とし、研修をすすめている。
今回の発表四点は、専門的な知識・技術が必要なものから、家庭でも普及しつつある一般的な機器をちょっとした工夫で活用する方法まで、多岐にわたるものであった。
今回の大川先生(小林聖心)の公開授業は、総合的な学習の時間における調べ学習の一環で、情報モラルとマウスやキーボードのスキル指導を同時に行うという興味深い内容であった。
自分のデータが何者かによって改ざんされていた、というインパクトのある導入で始まり、そこから形のない「情報」に対して、どのようにすれば作った人を尊重できるかを考えることで、著作権に関しての意識が高まっていくのが感じられるものであった。
人のことを自分のこととして考える、作った人の気持ちを尊重する人間になってほしいと願う大川先生の思いがダイナミックに伝わってきた。
小澤先生(大阪信愛)は、二〇〇一年より全国九校の私立小学校間で始まり、現在は公立小学校も加わったテレビ会議システムによる全国多地点方言交流の様子を、ビデオ映像を交えて紹介して頂いた。
「ライブ・オン」というブラウザが使えれば特別なソフトは不要なテレビ会議システムを使用。交流の内容は、各地の天気や気温、名物、学校紹介、「桃太郎」の方言翻訳と朗読発表、特徴的な方言の意味あて三択クイズなど、各地方の特色が出やすく興味を引かれるものである。参加している子どもたちの生き生きとした姿が印象的であった。
追手門学院小学校では、二〇〇二年よりLMS(ラーニング・マネージメント・システム)の研究に取り組まれている。初期の端末はシグマリオンVを使用していたが、やがて衰退し、二〇〇六年PSPを導入された。以後、研究を重ね三年生からの授業で学年導入されるようになった。
竹内先生(追手門)より今後PSPをうまく活用する何か良いアイディアを教えてほしいという提案があった。今後も学年展開による成果を報告してくださるとのことであった。
小寺・望月両先生(同志社)の提案は、簡単、安価、形に残るもの、児童の手で簡単に見られる機器としてデジタルフォトフレームを使った七コマスライドニュースの紹介。SDカードに七コマを絵コンテの順番通りに撮影すれば、失敗してもその場で撮りなおしが可能。それをデジタルフォトフレームの外部端子から掲示用薄型テレビに出力することで、子どもたちが制作したニュースに子どもたち自身が見入る。紙媒体に写真を加えることでより効果的に情報を伝えることができる、情報はシンプルなものほど伝わりやすいという具体例である。実際に子どもたちが制作した作品も紹介され、その完成度の高さには感心させられた。
(賢明学院小学校)
※これからも私立学校の魅力が伝わる情報を掲載していきます。
お楽しみに!
協力:全私学新聞
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